小説

『母岩戸』室市雅則(『天岩戸』日本神話)

 そうだ、お母さんと三人は我に返って、トイレのドアを見返した。

 ここまでの騒ぎがあってもドアは開く気配がなかった。
 再び三人が目を合わす。
 今度は「どうするか」を擦り合せる目線だった。
 思いついたように浩一がサンダルをつっかけて玄関から庭に回って、物置に向った。
 工具ボックスを片手に戻って来た。
 「オヤジ、これでノブ外して、手突っ込んで鍵を開けられないかな?」
 秀樹の顔がぱっと明るくなった。
 「ナイスアイデアだ!やるじゃないか」
 照れて、鼻の下をこする浩一。
 「照れている場合じゃないでしょ」
 彩は冷静だった。
 秀樹がプラスドライバーを手にし、ドアノブの解体に取りかかった。
 するすると解体され、ドアノブが落下し、穴が出来た。
 そこから中を覗こうと秀樹が顔を近付けた。
 トイレブラシが飛び出して来た。
 「うおっ」
 避けて思わず尻餅をつき、したたかに腰を打ち付けた秀樹。
 「いたたたっ」
 もんどり打って転がり回る秀樹。
 敦子の攻撃であった。
 「お父さん、大丈夫!何してんのお母さん!」
 彩がしゃがんで穴から中を覗き込もうとするも、やはりトイレブラシが飛び出して来る。
 「母さん、危ないから!」
 彩がトイレブラシを避けながら呼びかける。
 「どけ!」
 浩一が飛び出て来るトイレブラシを鷲掴みし、引っ張る。

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