小説

『カグヤちゃん』木江恭(『かぐや姫』)

 一体、何、追いかけてんすか?

 はあ、例の白骨死体の話ですか、また。
 ええ、そうですよ、昨日も聞かれました。ちょうどあなたと同じくらいの若い女性でしたよ。何だっけなあ、何かの研究のフィールドワーク?に来た学生さんって言ってましたね。
 そりゃ、あんまりペラペラ喋るのはまずいかなあって僕も思いましたから、ニュースになってるようなことしか話してないですよ。え?いやいやいや、そういうんじゃないですよ、そりゃ確かに、この辺じゃちょっと見かけないような美人でしたけど。
 それに別に大した話は出来ないんですよ、だって本当、ただの第一発見者ですから。え?ああ、そもそもの発端はね、村の子の可愛がってた犬が逃げたとかで探しに行ったんですよ。裏山の竹林、あそこは危ないから子どもたちは入っちゃいけないって言われてますから、まだ探してないだろうなと思って見に行って、でうっかり足を滑らして。まあちょっと尻を打ったくらいで済んだからよかったんですけどね、それでも結構な距離転がり落ちましたよ。ほらここ、この傷、だいぶ薄くなったけど、その時に枝で切っちゃって。血がバアーッて出て、さすがにちょっとビビリましたよ。
 で、とにかく上に戻らなきゃと思って起き上がって、手を着いた先がこう、ザラッていうかゴツッていうか、とにかく変な感触で、ええ?と思ってよく見たら、骨が。いやもう、心臓がヒュッってなって、尻が痛いのも傷が開くのももう全部忘れて飛び上がりましたよ。すぐよじ登って、応援呼んで。
 ううん、その後のことはあんまり知りませんけど。何でしたっけ、二十年前くらいに亡くなった、四十代か五十代の男性だったってことだけ。地元の人じゃなかったって聞きましたけど、どうしてこんな田舎に来てあんなところで死んじゃったんでしょうね。可哀想に。
 ああ、昨日の人の話ね、はい。まあ、今と同じ話をして、ふうんって聞いてましたけど、最後に急に目の色変えて、他には、って聞いてきたんですよ。ちょっと怖かったな。ギラギラした、かなり必死な感じで。
 意味がわからなくて、え?って返したら、他には何かありませんでしたか、って。他ってどういうことですかって聞いたらちょっと口ごもってから――その死体だけですか、って。他のはありませんでしたかって。
 その文脈って、どう考えても、他の死体ってことですよね?普通そんなこと聞きます?
 何か――美人は美人なんですけど、気味悪かったな。顔色なんか真っ白で、ギョロッとした感じに強ばってて。え?ああいや、もちろん他なんて何もなかったですよ。あったらもっとニュースになってますって。
 で、その時ちょうど電話が鳴ったんで奥に取りに行って――戻ってきたらもう、いなくなってました。変な人だったな。
 え、場所?死体を見つけた?まあ、別に立ち入り禁止とかではないですけど、え、行くんですか?はあ――そう、ですか。
 気をつけた方がいいですよ、あそこ、昼でも薄暗くって。

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