小説

『カンダタの憂鬱』poetaq(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

「KANちゃんの出てる『蜘蛛の糸』――名作よね。それが最近オンライン・ゲームにもなってるって知って、ログインしてみたの」
 ほら、とお釈迦様がカンダタにスマホを差し伸べられました。カンダタは一瞬仰け反りましたが、細目に画面を睨んでいるうち、ふと驚いたように首を突き出しました。
「なんだよ、こりゃあ!」
 カンダタが不満げに怒鳴りました。高い頬骨と無精髭の自分が二頭身に戯画化され、悪役で有名なアニメ・キャラたちと半裸のまま血の池に浸ってチャットしているではありませんか。それも、「生掘り」「フィスト」「乳首」などとゲイ罪人や獄吏にも求められた痴戯を各自の好みとして吐露し合っているのです。自身、毛深い「熊系(ベア)好き」にさせられているカンダタは遂にキレて、雲の地面を蹴上げました。
「冗談じゃねぇ!」
 雲片が舞い上がり、お釈迦様の鼻先を羽毛のようにかすめました。それらを咳き込みながら払われる御仏に、カンダタは恨みがましく言い募ります。
「強盗、強姦、放火に殺し――。確かに、娑婆じゃロクなことしてきちゃいねえさ。蜘蛛一匹救う以外はな」
「…………」
 カンダタが嫌味を吐きました。が、なにを言っても怒りを煽るだけとお察しなのでしょう。お釈迦様は無言のままです。カンダタが苛立たしげに続けます。
「だがな。そんな俺でも血の通う人間。オモチャにされてたまっか!」
「肖像権ってヤツね。そうよ。いくら罪犯してるからって」
「お釈迦さんよ!」
 カンダタがさえぎりました。
「俺はなにも二頭身を怒ってんじゃねぇんだ。ただ、いくら悪人つったって愚弄していいって権利は仏にもねぇはずだ。切ったり釣ったり、魚じゃあるめぇしよ!」
「その通り!」
 突然、お釈迦様がカンダタに向かって合掌されました。
「KANちゃんのおっしゃる通りよ。我れ深く汝等を敬います……」
「馬鹿にすんな!」
 カンダタがまた地を蹴上げました。雲片が再びお釈迦様の顔に舞い上がりますが、御仏は咳払い一つされただけで、姿勢を崩されません。それどころか、閉じた瞼から雫がポタポタ落ちるではありませんか。カンダタは「やれやれ」と首を振りました。

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