小説

『TOGA-OI』柏原克行(『狼と羊飼い』)

 そんな良平の前で真は科負いにとって致命的なミスを犯した事がある。科を負う筈の彼女自身があろうことか彼の前で科を犯してしまったのである。それは体育の時間、皆で後片付けをしている最中に起こった。サッカーの授業で使ったゴールポストを数人で持ち上げた瞬間、ついお腹に力が入ってしまい気がと言うべきか、お尻が緩んだのか可愛いオナラを出してしまったのである。真の丁度隣には良平がいた。確実に音が聞こえる範囲内に彼はいたのだ。
「(聞かれちゃった!?)」
 それはもう顔から火が出るくらいの恥ずかしさでその場から直ぐにでも逃げ出したい程の惨状だ。しかも初恋の相手に聞かれたかも知れないのだ。彼女自身誰かに科を負って欲しいとこの時ほど思ったことは無い。
「(私って日頃こんな恥ずかしい事を誰かの代わりに被ってたの!?)」
 これまでの科負い宣言告白を良平はどう思ってきたのだろうか?そんな思いが頭を過り恐る恐る良平の顔を横目で見ると彼は意外なほど無表情だった。
「何?」
「え、あっ、あのゴメンナサイ。私ったら…。」
「お前さぁ、また誰か庇ってんの?面白い奴だな。毎度、毎度。」 
「え?」
「優し過ぎんだよ木五倍子って。誰かの為にそこまでする必要ないと思うけど。」
「うん。そうだね…。いや、そうなのかなぁ。私もまだよく解らなくて。」
 これは良平が天然なのか真の日頃の行いに寄るものなのか定かではないが真の犯した科はまさにその場の空気と混ざり合い消えて行った。科負いという嘘を過度に吐き続ければその効力も一気に失われるのだと学んだ。ともあれ命拾いした真であったが恋する女子にとっての科負いの必要性を新たに考えさせられる事件であった。

 そんな真の科負いが女子達の間ですっかり定着した頃、ある問題が生じた。クラスの一部の男子達の悪戯心に火が着き彼等は面白がって態と真に科を負わせようと悪ふざけし出したのだ。
 ある授業中、一人の男子が態とらしい大きなくしゃみをした。無論、真が科を負うのは自分のやんごとなきクラスメイトの女子の為に他ならない。そもそも科負いの理では男の科を負う謂れはないのである。
「おーい、誰だ?でっかいくしゃみしたの?」
「どうせ、また木五倍子だろ?」
「ふあぁぁーーーーーーーーーーーーー。」
「マコト、大欠伸なんかしてる場合かよーっ!!」

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