小説

『ウサギとカメと原子核』にぽっくめいきんぐ(『ウサギとカメ』)

 原子核どんが反論します。
「原子核は、あらゆる元素の元になる核なのです。あなた方、ウサギどんとカメどんの体の中にも、大量に含まれています。

 ウサギどん達から「ゴール」「ゴール」と呼ばれた哲学者、デモクリトスが、口を挟みました。
「肉眼では、カメどんが最初にゴールラインを越えたかのように見えますね。しかし、カメどんがゴールラインに到達したその瞬間、そのライン上に存在する、カメどんを構成する原子核もまた、ゴールラインに到達しているわけです。この時、カメどんの体全体がゴールラインを越えているわけではないので、カメどんはまだゴールしたことにはなりません。すなわち、ウサギどんに対して先着したカメどんよりも、さらに先に、原子核どんがゴールしているわけです」

「……理屈ではそうだけどさあ」
 ウサギどんとカメどんは、顔を見合わせて言いました。納得が行かない表情です。

「――全ての物は、原子で出来ているのです」
 得心した表情で、哲学者のデモクリトスは言いました。

「お分かり頂けましたか?」と、原子核どんが、インテリぶった小さな高い声で言いました。

 ――しかしそこに、中性子どんが、とても小さな、いっそう高い声で割って入りました。
「私は、原子核どんを構成する、さらに小さな存在。電気的にも中性。その理屈からすると、私の方が、原子核どんよりも先にゴールしていたことになりますね」

 ――そこに、ニュートリノどんも割って入りました。
「私の存在を、どうお考えですか?」

 原子論を考案した哲学者、デモクリトスは、うなりました。
「私の理解を超える話だ。肉眼では見えないし」

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