小説

『(有)桃太郎出版社』吉田大介(『桃太郎』)

 桃田がそう宣言した。何かを言いかけた犬山を制し、桃田は続ける。
「そのために社員を一人増やさなあかん。笑わんと聞いてほしいんやが・・・、キジを探すんや!」
「ど、どげんこっですか、社長。犬、猿、キジでいよいよ本当の桃太郎ば編成するとですか」
「そうなんや、猿橋君。この正月ずっと考えとったんや。いままで恥ずかしゅうてよう言わんかったけどな、桃田に猿橋、犬山とくればこれはもう偶然ではない。まあ、バイトは田中やけどな。ウチは桃太郎伝説にあやかるべきなんや。この十年あかんかったのはキジがおらんかったからや。キジがおれば我が社はうまくいくんや」
 桃田が何かに憑かれたように目を輝かせて言うと、犬山が、
「マジでそうかも知れませんね。前から思ってたんですけど、社長は大阪からまるで桃太郎のように流れ流されここ博多に来ましたし、桃から出てきたわけじゃないですが・・・」
「女の桃を割って会社から出てきた・・・。何言わすんや!」
 桃田が自分で言って自分で突っ込んだ。
「俺は桃太郎なんや。君たちが猿と犬。思い込むんや。君たちには知恵もある、鼻も利く。ゴシップを嗅ぎつけ記事を練るウチみたいな会社には図らずも、うってつけや。あとは、キジのスピード。夜討ち朝駆けができる記者が欲しいんや」
「思い込みが必要なんですね。犬になりきれと」
 入社三年、会社の懐事情もよくわかってきた犬山は、世捨てのフォークシンガー魂で、落ちるところまでとことん社長についていこうと心に決めた。
「そうや。世の中には例えば自分がかぐや姫だと思っとる奴なんかもおると聞く。君は犬、俺は桃太郎と思い込むんや」
 桃田と犬山が熱くなってきたのを横目に、「やおいかん(容易ではない)ことになってきたな」と思い詰める猿橋。日焼けした額にしわを寄せ、しかしふと思い出す。
「社長、そういえば高校の同級生に木路川(きじかわ)って奴がおりました。友達じゃなかですけど」
「ほんまか!それイケるんとちゃうか。今、何やっとんねん、その男」
「違います。女です。銀行員ばやっとります。」
「ううん、どうも違うな。銀行辞めてウチに来ぃへんやろ。犬山は東京にキジがつく名前の知り合いおらんか」
 桃田が興奮した面持ちで本気で問いかけてきたので犬山は焦った。
「えっ、本当に名前で探すんですか。夜討ち朝駆けのスピード感を持ってる人って意味じゃなくて」
「まだわかっとらんのか。君は犬、俺が桃太郎、猿橋が猿や」
 桃田は激高に近い怒りを表した。

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