小説

『欲しいの因果』相原ふじ(『星の銀貨』)

 煮立った鍋をウインナーが泳いでいる。六本。一袋分だ。
 二袋で一パックになっていて、478円。これはアパートから自転車で3分のスーパーでの最安値。少し遠くのドラッグストアでは時々389円で売られていることもある。
 478円。この度はやや割高。
 ありがたみが増すということで。
 大学生のお財布には優しくないシロモノだけども無礼講ということで。
 むしゃくしゃする夜にはパンパンに膨れたのをバリバリやるといいのです。

 ぶくぶくぶくぶく。鍋の底から沸き上がった泡に担ぎ上げられている様を横目にリモコンを手に取る。
 「ユリコの恋は叶うのか!?」
 ふむ、ドラマのCM中だ。
 どうでしょう、叶うんじゃないの。
 「伝えなきゃって…!私、先輩のこと…!」
 ああー、夢があるなあ。

 コンロの前に戻ってウインナー達の様子を見る。
 欲しいなら欲しいって言わないとあげないよ、と鋭く言われたことを思い出した。

 保育所に通っていたころだ。スーパーの試食販売のおばちゃんに言われた。
 丸いホットプレート、一つ一つ楊枝の刺さった細切れのウインナー、白い三角頭巾。
 「どうぞ」と手渡してもらいたくて、おばちゃんの近くを何度も通ったり、ちらちら見つめたりしていたのだ。
 私は当時よく肥えていて、それを気にしていた。でぶがウインナーを欲しがるなんてあまりに典型的過ぎる、と恥ずかしがっていた。 一人っ子で、欲しがる前に与えられてきたからか、「欲しい」が中々出にくかったのもあった。
 そのときはものすごくきまりが悪く、漠然と、大人はこわい、と思った。
 今思うとおばちゃんは大人というよりむしろ、店員とか客とか大人とか子供とかを越えて私に接したのだろう。
 私は初めての一人前扱いに怯えたらしい。

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