小説

『明日、桜を食べに』柿沼雅美(『桜の樹の下には』)

 「出社して社内のクラウドグループなんちゃらをチェックして打合せして社内ミーティングしてデスクワークして友人と夕食を食べて帰宅して、ストレッチをして寝るんでしょ?」
 「グループウェアね、っていうかやーめーてー、テラスじゃなくてベランダだしストレッチとかほんとはしてませんごめんなさい」
 「してないんだろうなぁと思ってたよ」
 「さすが12から18歳まで一緒に過ごしただけあるわ」
 テンポがいい、懐かしい、楽しい、という気持ちがお互いに行き来しているのが分かった。
 「その頃もこうやってたよね、私たち」
 茜が太ももに落ちてきた桜の花びらをつまみながら言った。
 「だねぇ。放課後ずっとここでみんなでしゃべってた気がする」
 「そうそう。くだらないけど結構いいい話してたよね。大人は結婚したら子供はまだなのかとか言われてるのになんで自分たちが子供できるようなことしたらいけないんだ、とかへんなこと言って」
 「あー美優と茜で言ってたねぇ。なんで顔が地味なだけで制服も部活も合わない気がするんだとか、あ、これ私か」
 「うん、それ美保だわ。私はアニメ研究部じゃないブラスバンド部だ、って別になんでもいいのに真剣に言ってた」
 「ほんとは別にアニメ研究部も楽しそうでよかったよ」
 ふふふ、と二人の笑いがこもる。
 ねぇ、と茜が声のトーンを落とした。少し間が空いて春風の音が聞こえる。
 「ねぇ、美優はさ、勘違いだったんだよね」
 美保は、うん、とも、どうかな、とも思っても言えなかった。
 「私が夏休み終わりにサイパンのお土産持ってきたときさ、ちゃんと美優の分も買ったんだよ。でもあの時ここに彩夏ちゃんもなぜか来て、広げたお土産のひとつを手に取っちゃって、ひとつ足りなくなっちゃって、美優は日直で遅れて来たから美優の分だけ無いみたいになってた」
 うん、と声にださずに美保がうなづく。
 「1日旅行のときのグループ分けだって、私たち美優も一緒にって思ってたじゃん。当たり前にそうなると思ってたじゃん。でも先生が、休んでる子はあとで本人の希望聞いて決めるからって言ったから名前書かないでってなっただけじゃん」
 ん、と美保は無言で深呼吸をする。

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