小説

『明日、桜を食べに』柿沼雅美(『桜の樹の下には』)

 「ちょっとしたことで、また変わるのかなこれから」
 そう言う茜に、美保は、そうだね、と返した。
 ぼんやりと、風に枝から離れる花びらと、制服を着て花びらに手を伸ばして背伸びをする自分たちが、手のひらの桜を笑いながら食べているのが見えてくる。
「桜の樹の下には私たちがずっと埋まっている」
 そう言いながら美保は茜に体をもたれかけた。
 薄い青に染まる空を見上げて、ひらひらと頬に落ちてきた花びらを食べた。ふわりと、桜の香りが目の前に広がっていく気がした。

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