小説

『白い銀河』洗い熊Q(『銀河鉄道の夜』)

 新たな白い世界に描いたもの。
 白い背景の上からは灰色の雪が降り。
 降りてくる雪たちを優しく見つめ上げる親子の雪だるまを描いて見せた。
 予想はしていたが僕が描き終わったと思った途端に、灰色の雪たちがゆらゆらと花びらのように動き始めた。
 音の無い白い平原に深々と灰色の雪たちが舞い、それを親子の雪だるまがしんみりと眺めていた。
「おお。静寂ながら味のある情景だ」とシーズー男は喜んだ。
「そうですね。僕は音が包み込まれる雪景色が好きなんです」
 そう僕が言った矢先、シーズー男は僕が墨を浸けてしまった酌を一気に飲み干していた。
「あっ! それ墨を浸けてしまって……」
「いやや、素晴らしい! こんな景色を炬燵に入りながら酌を交わすのもいいもんだが……。やはり何とかは喜び庭駆け回りだ。ムーさん、一緒にそこへ飛び出そうじゃないか」
「へっ?」
「そらそら、急いだ、急いだ」
 そう言ってシーズー男は跳ね上げ式の車窓を開ける。そこからは冷たくて湿った重い感触を与える空気が入ってきた。
 有無を言わさずにシーズー男は僕をお尻の方から持ち上げるようにして窓に押し込んでいく。
「ちょっと! ちょっと!」
「良いかムーさん、いくぞ~!」
 押し出されて慌てて体勢をとって足から着地する。
 足裏からは軋む音が。木の音だ。
 あれっ? 
 ――窓から押し出されたその先。またも同じ客車の中だった。
 繰り返された光景に何度も周囲を見渡す。そして思い出したかのように僕は後ろを振り返って見た。
 背後にあった車窓には、以前に描いた大河の景色に重なるようにして親子の雪だるまの風景が手前にと見えていた。
 呆けている僕にまたも聞き覚えのある声が響く。
「おお~、ムーさん、ムーさん。こっち、こっち」
 またあのシーズー男が両の手を振って呼んでいる。
 僕は頭を掻いて苦笑いで答えるしかなかった。

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