小説

『星めぐりの』ノリ・ケンゾウ(『 銀河鉄道の夜』『双子の星』宮沢賢治)

「ねえ、どこ行くの、ぼくら」
 シュウタが問うと、
「あれ、端っこのとこ」
 とミヤコは云って指差すが駅名は口にせずすぐに券売機の前に向かっていったので、やはり線の多い文字を読めないシュウタはどこに行くのか分からぬまま。

 ホームに二人して立って、ミヤコの手を握り待ち、ようやっとガタゴト音を立ててやってきた電車を見ると、シュウタはいよいよ興奮を抑えられない、といった感じで声を上げる。きゃあとか。うぎいとか。ふぎゃうとか。そんな声。
「ねえさん見て!電車!」
「もう見えてる。シュウタ喜びすぎ」
 もう見えてると云われたところで、見て欲しいと思って見てと云ったわけではないから、シュウタは何度も見て見てと云うのを止めない。
「ねえさんぼく、あれと競争しようか。ぼく足がとっても早いから。みんなにもよく云われるよ、シュウタは足が早いね、って」
「だめ、これから乗るんだから、何いってんの」
 と窘められたシュウタは、けれども電車に乗るのも楽しみでしかたがないから、まるで落ち込みもせず、
「ねえさんそしたら、一番前に行こう。ぼく運転がしたい」
「いいよ。でも運転はだめ、というか無理。できない」
 なんでー、と云ったか云ってないか、シュウタはねだるような顔でミヤコを見るが、無理なものは無理、とミヤコに制され手を引かれ、先頭車両まで歩いて電車に乗った。
 電車に乗って、いよいよ走り始めると、シュウタはめっきり静かになった。
「どうしたシュウタ、電車、動いたよ」と、ミヤコに問われても楽しそうでないので、「気分、悪いのか」と続けて尋ねるミヤコに、シュウタが首を振る。
「ぼく、前が見たい」
「前? 前ってなに」
 ミヤコが聞くのに、シュウタは指差して、運転席の方を見る。
「ああ。高くて見えないの。運転席の窓が」
 無言で頷くシュウタに、ミヤコが脇から手を入れ持ち上げてやる。
「ほら、見えるだろ。前」

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