小説

『猫と、僕と杏子の距離』こさかゆうき(『猫と庄造と二人のをんな』)

 リリーがレズではないかと思いはじめたのは、彼女がうちに来て1 週間が経
ったころだった。
 リリーは杏子の友達から譲り受けたメス猫で、僕と杏子の1K(27 平米)のアパートに住んでいる。最初、僕は正直、飼うのには反対だった。死んでしまったら、めちゃくちゃ悲しいから。実際にペットを飼ったことなんてないけど、
よくドラマとかでやっている愛犬が死んで子どもがわあわあと泣き喚くシーンに、もろに影響を受けている。そういったつくられた「ペットとの別れ」がトラウマ的に脳にインプットされていて、どうも自分で飼うというのは気が進まなかった。

「なあ、健二。実は柚葉が猫の里親を探してるねんけど」
「うん」
「んでな、4 匹生まれたらしいんやけど」
「うん」
「それがめーっちゃカワイイねん!」
「うん」
「ほらほら、これ。柚葉がfacebook に載っけててん」
「うん」
「ほんでな、うちで1 匹引き取りたいなあって」
「うん」
「うんうんうんうんうんって、うんこか!」
「うん?」
「いや、5 回、うんって言うたやろ」
「…うん」
「そやから、『うん』を『5 回』で、うんこ」
「うん?」
 ちょっと待てよ。猫を飼う?
 杏子のボケはひとまずスルーして。僕は猫を飼う、というところに反応した。
 読みかけの『少年マガジン』をいったん閉じて、杏子のほうにごろんと体を向けた。
「猫を飼う?うちで?」
「そや」

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