小説

『ゴク・り』冬月木古(『桃太郎』『聖書』)

 ひとりひとりストールから巻き髪をかき出すしぐさは、まるで戦隊モノが登場するときに順番に披露するポーズのようだ、と彼女は思っていた。家に閉じ込められてストレス満開の子どもたちを公園に連れ出す、という名目で、育児と家事と亭主への不満満開、外に出て自分をアピールしたい先輩ママたちが、次から次へと優しい言葉をかけてくる。ユニクロのダウンを着ているのは、私だけだ。他のみんなのいで立ちもカジュアルだが、着ているのは、モンクレーのダウンやマッキントッシュのゴム引きコートで、もしくは20万近くするようなアウターだ。バッグはヴィトンにボッテガ。この間、コーチなんて安物は持ちたくないと言っていた。ふぅ、とお腹をさすりながらため息をつく。

 平日のお昼過ぎの公園は、まだ幼稚園に行かない2、3歳くらいまでの子とそのママの独占状態だ。午前中にはゲートボールを険悪なムードを漂わせながらやっているお年寄りの集団もいるけれど。お昼休みはスーツを着たサラリーマンやOLも多くいる。誰が決めたわけでもないが、人種によって使用時間が分けられている。ママたちもセレブ組と普通組の2部制にしてほしい、と思うのであった。

 そこへセレブ組からも「理想の夫婦」と妬まれる清森さん夫婦が、通った。クリスチャンで、教会に行くときにここを通る。50代後半と見受けられるが、もしかすると見た目が相当若く、実はもうお仕事はリタイアしている年齢なのかもしれない、と噂されていた。一目で高級そうだと分かるスーツで出かけたり、デニムにジャケットというラフな格好に、ゼロハリバートンのアタッシュケースを片手に出かけることもあり、業界の人っぽいよね、とママたちが話しているのを、自分がAMしか受信できないラジオなのにFMのラジオ放送を受信するように、聞いていた。清森さんは、今日のように平日に仕事をしていないことも多く、自由業なんだろうと、つかみどころもなく、手掛かりも少ない状況に、奥様方たちの好奇心は、あふれだしていく。

「清森さん、こんにちはー、お出かけですか?お仕事はお休みですか?」
「あーこんにちは。ちょっと教会までね」
 と柔らかで穏やかな春の日差しのような口調で答えた。たわいもない、しかしさりげなく何かを探ろうとするいつものやり取りをし、自分たちの声が届かない距離まで夫婦が立ち去ると、戦隊は会議に入った。

「クリスマスの準備かなにかかしら」
「ボランティアなんてそうできるもんじゃないわよね」
「余裕がないとね」

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