小説

『ギブ・アウェイ、パンティ』枯木枕(『幸福な王子』)

 朝木ちゃんを撮る俺。
 朝木ちゃんの下着姿を撮る俺。
 たまにはアソコをズームで撮る俺。
 奥の奥の奥の奥のまで撮ってしまいたい俺。
 でもそれだと飽きられちゃうし、最初からヌードを安売りする必要はないので、ポラロイドカメラからべろべろ出てくる下着姿のチェキを何枚か選んで……微妙に荒っぽいほうが生活感や素人感が出ていい……朝木ちゃんの履いた使用済みパンティとセットにして寂しそうで可哀想で気持ち悪いブサ男や寂しそうで可哀想で気持ち悪い油マシマシなおっさんに売ってあげる。
 そのブルセラまがいで得た金を胸に原付で朝木ちゃんのアパートに戻る。彼女は、そこら辺に置いてください、とつま先で畳を撫でるだけでこっちに振り向いた試しはない。このボロ部屋唯一の机に齧りついているときは、もう鰐か何かかってくらいに離れやしないのだ。小さなペンの音だけが薄い壁を通り抜けることなく、こもって響く。
 だから俺もささくれた畳にどかっと尻を預けてついでにケータイも財布も腕時計もカバンもバイクの鍵も放り出しちゃう。さらには背中まで。そして地震でもないのに揺れる頭の悪い蛍みたいな豆電球が天井の雨漏り穴の隙間を縫って飛ぶ様を眺めながら一方的に喋り倒す。「この間子供のとき読んだ童話を読み返して……ツバメと喋る王子様の銅像が出てきて何だかんだあって愛し合って死ぬんだけれど、よくよく読むと二人とも男でネットで調べたら作者は男色家だったよ」とか「大学の同じキャンパスにAV女優になったやつがいる」とか「『笑っていいとも!』が終わったことを最近知った」とか……そういうくだらないことを。そうして二時間くらいすると朝木ちゃんはようやく口を開く。
「コーヒー、飲みます?」
「飲む」と乾いた舌をなんとか動かす。
 朝木ちゃんは昭和的ビジュアルのヤカンに火を通して、インスタントのブラックコーヒーを僕に手渡してくれる。僕は僕でカバンから道中のコンビニで買っておいたハムサンドを取り出して彼女に放る。まったく、この部屋にはコーヒー粉以外の飲食物はひとつだってありやしないのだ。生活の匂いがまったくしない。だからこそ俺はこの部屋の畳に貴重品を投げ出して、うとうと安らぎを得られるわけだが。
「ありがとう」
「うん」
「いくらで売れました」
「八万」
「そうですか」
 まあとりあえずはこれで俺の財布も潤ったし、朝木ちゃんも今月の家賃には困らないだろう。

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コメント
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    エロスの向こうに主人公の自己嫌悪と矛盾、欲望と葛藤、彼女の透明さと不気味さがあり、心のやわなところを掻き立てられた。(3月期優秀賞受賞者:砂部岩延)