小説

『窓辺の夫婦』草間小鳥子(『錦絵から出てきた女の人』)

 ぼくは、思わずききかえした。おじさんは、ぽかんとした顔で、
 「えぇ。小柄な女と、お客さんくらいの背格好の男。興味があるなら、内見します?」
 と、いらいらと足踏みをする恋人と、ぼくとを見比べていた。
 「よかった……」
 「え?」
 ぼくは、窓から顔をそむけて、首を振った。
 「いいんです、お時間とらせちゃって、すみません。次のを見に行きましょうか」
 それからぼくは、誰もいない窓に向かってこっそりと手を振り、小走りで恋人に追いつき、先を急いだ。

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