小説

『玉手箱の真意』よだか市蔵(『浦島太郎』)

「あ、俺?」
 『イケメンだけどなんか怖い』としばしば形容される顔を稜が向けると、彼女は彼を繁々と見つめ返した。
「ええ、手を貸してくださらないかしら。ここを横切った先に行きたいのだけれど、今日は荷物が多くてねえ」
 何が入っているのか、確かに手押し車の布地はパンパンに膨れ上がっている。老人が押して歩くには難儀することだろう。
「あー……ま、いいか。じゃあ俺がその、重そうな奴を運ぶから。婆さんは普通に歩けんのか?」
 この後に特段の予定も無かった稜は、頼まれてしまったものは仕方がない、と老婦人を助けることにした。
「荷物が重いだけで、私の足腰はピンピンしてるから大丈夫」
 老婦人が笑顔で頷くと、稜は手押し車のハンドルをひょいと握る。しばらく左右を確認し、交通量が減ってきたところを悠然と渡り始めた。
「はいはい、ゴメンよ。歩行者優先、敬老感謝ってな。おい、婆さんも早く」
 二人の目前で停止した車がウィンドウを下げて何やら文句を言っているのを稜は全く気にも留めず、老婦人を連れてそのまま強引に道路を横断し切った。
「ありがとうねえ、お陰で助かったわ。忙しいところを大丈夫だったかしら」
 老婦人が改めて礼を言うと、稜はへっと冷笑し、
「忙しくもなんともねえよ。こちとら無職の暇人だ」
と吐き捨てた。彼女はそれを聞いて二、三度目を瞬かせると、突然に稜の両手をがっしと掴んだ。
「まあ! きっとこれも何かの縁だわ! あなた、もしよかったらうちで働かない? 私は辰宮トメ。こう見えて、小さな会社の会長をしてるのよ」



「リョウって、今何してんの?」
 地元の駅前で稜は中学時代の友達二人とばったり出会い、近くのチェーン居酒屋で急遽飲むことになった。とりあえずのビールで喉を潤し、ところで、と芸人顔の方から近況を尋ねられた。
「一応、サラリーマンやってる。今年で四年目になるかな」
「え、リョウがリーマンってウケる。毎日エイギョーとかしてんの?」

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