小説

『愛をさがす獣』芥辺うた(『美女と野獣』)

「オーガー様!」
 真っ赤になって声の上がった方を睨みつけたオーガーだったが、鈴音に手を握られて、再び彼女を見下ろす。
「……今日だけ、私もお姫様の気分になってみたいんです」
 音楽が一度止まり、今度は少しだけゆっくりとした曲に変わった。オーガーは躊躇いながら、鈴音の細い腰に手を回す。二人はゆっくりと、音に合わせて踊り始めた。
 鈴音はオーガーの瞳をじっと見つめた。
その中にはもうどこにもあの凶暴な光は見て取れない。少しだけ熱を孕んだ赤い瞳がこちらを見返しているばかりである。
溶け合うように踊る二人を見て、辺りからはうっとりとしたため息が聞こえてくる。
「オーガーさん」
「……何だ?」
「明日、町へ行きましょう」
 オーガーの顔が少しこわばったのを見て鈴音は苦笑した。
「この城の中にだけじゃ、不満なのか」
「いいえ。このお城の中にも素敵な場所はたくさんあります。大きな図書館、裏庭の池に、オーガーさんのバラ園……。でも、外の世界にだって素敵なものはもっとたくさんあるはずなんです。私は、オーガーさんと一緒にそれを見たい。だって、――大切な人の傍で見る景色は、それはそれは愛おしく、心に残るはずだから」
 オーガーが足を止めと、鈴音はオーガーの首元に腕を回して抱き着いた。周りからは息をのむ声が聞こえる。
「……助けられたあの日から、私の恋心はすっかり育ってしまいました」
「す、ずね」
「大好きですよ、オーガーさん!」
 オーガーは早鐘のように鳴り続ける自分の鼓動を耳元で聞いた。密着した身体から鈴音の熱い体温を感じる。甘い香りが鼻腔を掠め、たまらなくなって細い身体を掻き抱いた。
 冷たい血が身体の中を駆け巡るような感覚がオーガーを襲った。
 オーガーは、鈴音の肩を押し、勢いよく突き放す。音楽が止み、シンとした広間にオーガーの声が響いた。
「この城から、出ていけ!」
オーガーは彼女に背を向けて歩き去った。

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