小説

『愛をさがす獣』芥辺うた(『美女と野獣』)

「泊めていただいたお礼にお城を掃除しようと思って」
 鈴音とオーガーの傍を、棚を抱えた二人の使用人が通りがかる。
「すずねさん! この棚はもう拭いたから戻していいんですよね?」
「はい、でも戻す前に床をしっかり水拭きして、その後乾いたタオルで拭いてから置いてくださいね」
 はーいと声を揃えて遠ざかる二人。
「最初は私一人でやろうとしてたんですけど、何故だか皆さんも手伝い始めちゃって」
 窓の外を見ると、アグリが真っ白になった洗濯物を木と木の間にかけた紐に吊るしているところだった。
「……何やってるんだ、あいつは」
「アグリさんは一番はりきってお手伝いしてくれてます」
 呆れてため息を吐いたオーガー。鈴音はおずおずと彼に尋ねた。
「あの、もしよかったら、オーガーさんのお部屋もお掃除させていただきたいのですが……」
「俺の部屋は」と断りかけたオーガーだったが、自分に集まる視線を感じて辺りを見回した。どうやら様子の気になる使用人たちが視線を向けているようだ。中には頭の上で丸をつくってGOサインを出しているものまでいる。オーガーが睨みつけると彼らはクモの子を散らすように逃げていった。
「オーガーさん?」
「……俺の部屋も、掃除してくれ」
 はじけるような笑顔で頷かれ、オーガーはその日もまた得体の知れないむず痒さに悩まされるのであった。

 
 さて、鈴音がこの城に来てからというもの、この城に以前のような静寂が訪れることはなくなった。連日にわたる大掃除のおかげで城は見違えるように綺麗になり、新しい料理や、遊びをたくさん知っていた鈴音のおかげで、使用人たちも生き生きとするようになった。鈴音の持つ明るく、優しい雰囲気が城中を照らしているような気さえする。
「アグリさん!」
「これはこれは、すずね様。お料理教室はもう終わったのですかな」
「今はパイ生地を焼いてるところで。サングリアさんが生地を見ていてくれるから」
「なるほどなるほど。それで、私に用でございますか?」
「これを差し上げたくて!」

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