小説

『コンの銀杏』鴨カモメ(『ごんぎつね』)

「なんだよ、栗が食いたかったんだろ?」
 そう言いながらも、コンは嬉しそうだった。
「覚えていてくれたんだな。でも季節外れの栗が食いたいって言ったのは、お前のことを少しでも繋ぎとめておきたかったからだ」
 まっすぐにみつめるその視線にコンの瞳は捕らわれた。
「コン、お前が狐でもかまわない。俺のものになってくれないか?」
 コンの顔が一瞬のうちに赤く染まる。気持ちの良い秋の風が、その火照った頬を撫でて通り過ぎていった。
「オイラの命は兵十のものだよ」
 それを聞いた兵十は優しくコンに微笑みかけた。
「大切にするよ」
 兵十の幸せそうな顔がコンの胸を甘く締め付けると、コンはたまらず兵十の首に飛びついた。兵十もまた、小柄なコンをその腕の中に包み込む。

 抱き合うふたりの足元は一面銀杏の葉で覆い尽くされ、上を見上げればきつね色の葉が次々と舞い降りてきた。コンはその黄金色の世界の中で母狐が笑ってくれているような、そんな気がしていた。

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