小説

『野ばら』化野生姜(『野ばら』)

老人は、その音を聞くと何も言わずに足早に青年の家を出て行きました。
あとには、静かにうつむく青年の姿がありました…。

青年が戦場に行ってしまうと、老人はひとりその星を管理しなければなりませんでした。それは、ひどく寂しいものでした。
老人はときおり思い出したかのように電子ペーパーを眺めました。
しかし、戦地の情報は何光年も離れているために伝わるのが遅く、情報規制も入っているためか要領を得ないものばかりでした。

そうして、そろそろ季節も移ろうかというころです。
あるとき、空から一台の小型の船が降りて来ると、自分は旅人で宇宙船に乗せた貨物をいくつか買って欲しいということを頼まれました。聞けば、彼はついひと月ほど前に件の青年の住む小さな星からやって来たということでした。

老人はそれを聞くと、その旅人に戦争はどうなったかと尋ねました。
すると、旅人は暗い顔で答えました。

「戦争で小さな星が負けました。そして、その星の兵士は捕虜として宇宙船に乗せられましたが、宇宙船が大気圏を超えた直後に、何らかの理由で、捕虜を乗せた宇宙船が大爆発を起こし、大きな星の兵士の一部と、小さな星の兵士の全員が巻き込まれたのです…そうして、船に乗っていた人はみんな死んでしまいました。」

老人は、最初その言葉が飲み込めませんでした。
そうして、ちょうどそのとき、電子ペーパーが新しいニュースが入ったことを知らせるアラームを鳴らしました。
老人は慌てたように電子ペーパーを取ると、ほとんど無意識にその画面を操作しました。すると、先ほど旅人が話したことと寸分違わない内容が戦争の終結の記事とともに紙面に踊っていたのです。
もはや、老人は現実に直面しなければなりませんでした。

件のニュースは大きく取り上げられていました。
事故か事件かはまだ調査中とのことでした。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12