小説

『野ばら』化野生姜(『野ばら』)

すると、それを聞いた青年は黙り込みました。
それは確かに、老人の言う通りであったのです。

青年の星には、もともと二つの政権がありました。
政府は話し合いで物事を決めていましたが、その両方の意見に不満を持った一部のグループが新たな派閥をつくり、運動を起こしたのです。
その運動は、民衆の支持も得て成功を収めました。
しかし、最初こそ成功した彼らも、自分たちの考えに反対する人間が増えて来ると次第に暴力的になり、軍を使って黙らせるようになりました。そうして、ある日その中でも一番過激な思想を持つグループが、大きな惑星に対して宣戦布告をしてしまったのです。

あとはもう、なし崩しでした。星全体が戦争の準備を整え、何百人もの兵士と兵器を乗せた宇宙船が空へと飛び立ちました。星同志には情報規制が敷かれ、外の星との外交は完全に途絶えました。
そんな状態で、もしこの星にいる青年に軍事招集がかかったのならば、青年もただで出て行けと言われることはまずないでしょう。
老人は、それを見越した上で青年の前に銃を置いたのです。

「…君は軍に入るときに生体認証としてマイクロチップを体内に注射したのを覚えているかね。それは私の星でも同様でね、もし軍の所持品の銃で誰かを撃った場合、すぐにネットワークの中にあるデータベースから誰が撃たれたのか、それが致命傷となり得たのかが明確に分かるシステムになっていた。そうしてそれは、二つの星が争っていなかったあいだは互いに情報交換もし合っていた。…無論、旧政権の頃ならそれは兵士が起こした不始末の証拠となるのだがね。だが、今ではそのチップの意味も変わっているだろう。」

そうして、老人は銃に視線を落として言いました。
「こう見えて、私は少佐だ。私を撃って、この銃を君の星に持ち帰ると良い。軍のネットワークはまだ互いの星で生きている。だから私を撃ちなさい。君が兵士として招集されることになっても悪いようにはならないはずだ。」

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