小説

『霧の日』化野生姜(『むじな』)

目の前の襖が開くと、妻と娘が顔を出した
それを見て俺は少し気分が悪くなった。
妻は顔が無い。他の女性と同様につるりとした面立ちだ。
これならまだ納得出来た。
…しかし、その隣にいる娘も母親に似たつるりとした顔立ちをしていた。

どうしてなのだろうか。
俺は、顔をうつむかせる自分の息子を横目で見た。
その顔には、目も、鼻も、口も、ちゃんとついてそろっている。

そうして、正面の娘の顔を見る。
娘の顔には、目も、鼻も、口も、何も無かった。

…どうして、血を分けた姉弟であるはずなのに。ましてや、自分の子供であるはずなのに、こうも違いがでるのだろうか。
俺は二人の顔を見るたびに、自問自答した。 
しかし、答えは出ない。
やがて用事はすんだのか、妻は娘に何事か言うと一緒に襖の向こうに姿を消した。そして、その姿が完全に襖の向こう側に消えると、俺は長いため息をつき天井を見上げた。

この世には、わからないことがたくさんある。
これもその一つだ。しかし、ある程度妥協してしまえばそれを気にすることなく生きることもできる。
それが今の俺だ。

…しかし、そのときふと思った。
本当にそれでいいのだろうか、と。
何かから逃げていないか、と。

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