小説

『蜘蛛の糸』anurito(『蜘蛛の糸』)

 つまり、この極楽世界に欠けていた、もう一つのものとは、娯楽なのである。
 この土地の住人たちは穏やかだったが、活気は感じられず、今の生活をもっと楽しくしようと言う意思がまるで無いように思えた。彼らはそれで良かったのかもしれないが、カンダタにはそんな味気ない生活がとても耐えられないのであった。
 ある時、カンダタは、皆に色んな遊びを広めてやろうと思い立った。彼は、極楽の住人たちを一カ所に引っぱり集めて、さまざまなゲームやスポーツ、賭け事などの説明会を開いてみた。そして、これらの娯楽を皆で楽しもうと持ちかけてみたのである。
 その試みは、一見成功したかのようにも見えた。住人たちは覚えもよく、ゲームやスポーツのルールをきちんと把握してくれたし、カンダタの方からそれらの遊びに誘ってみると、快く付き合ってくれたのであるが、しかし、そこまでなのであった。カンダタと一緒に遊んでいても、例の相撲の時と同じで、住人たちは自分が勝とうと言う意気込みをまるで見せようとしないのである。一人張り切っているカンダタに、皆が口裏を合わせて、勝ちを譲ってくれているようにすら、カンダタには感じられたのだった。こんなプレイでは、当然ながら、カンダタの方も少しも楽しくはないのである。
 カンダタの方から誘った時こそ、住人たちはゲームやスポーツなどの遊びに付き合ってくれたが、自主的に自分たちだけでそれらを遊んでいたようには見受けられなかった。その事が何となく分かってくると、カンダタの方も無性にむなしくなってきて、住人たちと遊ぶ事を止めるようになっていったのだった。

 カンダタの素行がおかしくなってきたのは、大体、この頃からである。
 ある時、カンダタは、目の前を歩いていた住人の女にいきなり襲いかかっていった。女は抵抗もしないし、嫌がりもしなかった。かと言って、喜んでいた訳でもなく、まるで人形でも犯したみたいである。実にあっさりとしたレイプであった。
 何だか気持ちがおさまらなくなってきたカンダタは、そのまま奇声を発しながら、そばにいた他の住人の女性にも飛びかかっていった。その女性も簡単にカンダタの手に落ちてしまったのだが、まだまだカンダタの憤った心は静まりそうになかった。
 その日のうちに、カンダタは10人以上の住人の女をレイプした。誰一人、カンダタに逆らおうとする者はいなかったし、カンダタの行為を戒めようとする者も現れなかった。女たちは、レイプされた事すら、手を握られた程度の事にしか感じてないような態度を取り続けていた。この土地の住人の温厚さは並みじゃないようなのだ。

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