小説

『新生アリス計画』ちまき(『不思議の国のアリス』)

 支配者アリスの神殿に、下僕…もとい白ウサギの叫びが木霊する。
「おかしい!色々おかしいでしょ!サラッと下僕にされてるし、細かい描写の説明をしてないから伝わらなかったでしょうけど、怪物を倒すくだりっ、『不思議の国のアリス』お馴染みキャラ達がかなり可哀想な事になっていましたからね!!てか最後が明らかに問題あるでしょ!なんだ君臨って、世界を救う勇者がなんで支配者になってるんですか!!?」
 白ウサギの不満爆発。
 落ち着こう。いったん落ち着こう。本文もアリスに支配され過ぎた。主導権を戻そう!
「ククク、なんぞ不満でもあるのかぇ?」
 高圧的な声が降り注ぐ。
 圧倒的な存在感で玉座に君臨するのは、もはや、今風女子の恰好で好き勝手に路線変更を主張していたアリスではない。
 黒装束を身に纏い、角まで生やしたその姿は、まさしく世界を支配する魔王。
 完全に板に付いている。生まれた時から魔王だったみたいだ。正直恐い。本文の主導権を取り戻すなんて無理。誰か助けて…。
「お待ちなさい、アリス!!」
「む!?」
 一陣の光。誰もが魔王アリスに怖気づく中、その者は突如現れた。高らかな声は、神殿に満ちた邪気をその響きだけで払拭させるモノがある。
 ここで魔王アリスに立ち向かえる唯一の存在。それは…
「お前は、ハートの女王!」
 勝手な路線変更の末、影も形も消え失せていたかつての傲慢な支配者。しかし今は、美しい薔薇色の光を纏いし愛の戦士。
 10代の姿に、膝上丈のワンピースに手袋・ブーツと言った近代の魔法少女のような格好をしているが、路線変更後の現状世界では取るに足らない事だ。魔王と化したアリスより、よっぽど主人公っぽい。
「我に全てを奪われた貴様に、今更何ができる!既にこの世界は我の物だ!」
「いいえ!これ以上の世界感を崩壊させる路線変更は私が許しません!」
 完全にラスボスと、正義のヒーローとの会話だ。
 刃向かってきた愛の戦士ハートの女王に対し、歯牙にもかけず鼻で笑い飛ばすと言った態度の魔王アリス。

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