小説

『新生アリス計画』ちまき(『不思議の国のアリス』)

 しかしアリスは白ウサギの方をチラリとも見ようともせず、読みふける本のページをめくる。よほど面白い本なのか。それはそれで気になる所。
「あのーアリスさん」
「イヤだ」
 白ウサギが再び話しかけると、今度は返答したアリス。その声は明らかに不機嫌そのものだった。
 ブツブツとアリスは続ける。
「話が出来て数万年、何回同じ事させる気よ。毎度毎度バカみたいに走らされて、気分のらない日もあるっつぅーの」
 なんとも口の悪いアリスなのでありました。
「話が出来て、まだ万年も経っていませんが…」
 白ウサギは指摘する。冒頭にも記した通り、『不思議の国のアリス』が書かれたのは1865年。150年ほどで、万年は経っていない。
 しかしよくある話。不機嫌な人に正しい指摘をしても、受け入れられる事はほぼ無い。むしろ逆ギレされるのがオチだ。
 例に洩れず、アリスの機嫌はますます悪くなった。本を投げ捨て、白ウサギの両耳を問答無用で掴んだと思ったら、恐ろしい形相で力の限りそれを引っ張り上げる。
「いだだだだっ!!」
 悲痛な叫びが響く。口だけでなく、手まで悪いアリスだった。
「な、何がそんなに不満なんですか!?」
 白ウサギは必死にアリスに尋ねる。すると意外にも、アリスは簡単に白ウサギの耳を放した。可哀想な耳はもげこそしなかったものの、ボロ雑巾のようになっている。痛々しい…。
 アリスは語る。結局のところ、彼女は不満のはけ口が欲しかったようだ。
「この話ってさ、早い話『夢オチ』じゃん?」
「まぁ…早い話と言うか、ぶっちゃけと言うか…そうですね」
「使い古されたネタだっつぅの!意外性も何もないじゃん!いつまでもそれでやってけると思ってるわけ!?」
夢オチとは、物語の最後に「それまでの出来事は、じつはすべて夢だった」という結末を明かして終わること(フリー百科事典Wikipediaより)
 『不思議の国のアリス』を読んだ事がある人には、周知の事実だろう。しかし当の主人公が言ってしまうのは中々シュールではあるが、本文の醍醐味と思って読み進めてもらいたい。

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