小説

『豆の行方』多田正太郎(『追儺』森鴎外、『ジャックと豆の木』)

「食い物! 食い物! 食い物!」
 なんでもいい、食えるものなら。
 それ、求め。
 全てのものが、挙動不審。
 目線を、右往左往。
 ギラギラ、鋭く漂わせ。
 叫び続け、ぞろぞろと。
 群れと化して、歩いている。
 正確にいうなら、イヌかなにかの動物のように、四足でないだけだ。
 かろうじて、手が地面スレスレに、なりながらも、前足にならずにいるからだ。
 歩いている。
 だが、もはや2足歩行の、人間でなくなる寸前だ。
 ちょっと前までは、金さえ払えば、当たり前のように、食い物は、手に入った。
 別の言い方をするなら、食い物が手に入った国、いや領域、いやいや者も、あった。
 と、表現すべきだろう。
 勿論、共存する、地球のどこかでは、絶え間なく、餓死者が、存在しつつの話だった。
 そんな、不都合な事実は、知らなかった、ことにしてだ。
 無感覚?
 いや、違う、自分の心の中。
 そこでの隠蔽。
 《夜と霧》だ。
 夜、霧のごとく、人が消えたことを、知らなかった、と。
 知っていた者が、答えた。
 あの、善良な普通のドイツ市民が、答えた、あれだ。
 ナチの時代の。
 それと、なにも違わない。

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