小説

『あたま山』鴨塚亮(『あたま山』)

「確かに、できた女でした。大企業で立派にポストを掴んでいる。給料はおれよりずっと多い。なのに休みもちゃんと取る。料理も上手ければ人当たりもいい。おれにはもったいない妻だった。そう、おれが悪い。何もかもおれが悪い。が、悪くて、何が悪いのですか」
 と、くだを巻いていたら、急に頭が締め付けられるように痛んだ。
 きゅ、という音がした。
 ぽん、と破裂音がした。
 周りで飲んでいた影たちが、拍手喝采した。おれは、反射的に頭に手をやった。指が薄い膜のようなものに触れた。
 花びらだった。
「咲いた、咲いた!」
 誰かが叫んだ。
おれの芽は、枯れるどころか酒で育ち、とうとう桜の花を咲かせたのだった。

 桜の木の下には死体が埋まっている。
 すると、おれはその死体になった。間抜けな死体だった。頭から桜の木が生えているのだ。おめでたいじゃないか。

「咲き足りない?」
「ああ、全然」
「え?咲けるの?もっと咲けるの?」
五部咲きから七分へ。七分から九分へ。
「もっと!」
九分五厘。
「よいしょ!」
九分九厘。
で、満開になったらどうなるんだろう?

それからは、いっそう色んな人が寄ってくるようになった。

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