小説

『地蔵・ゴーズ・オン』西橋京佑(『笠地蔵』)

 こんなこと、誰と言い争ったって意味がないじゃないか。傘をかぶらない僕は、一体なんなのだろうか?僕は誰のために、何のために、週休2日の傘かぶりの仕事を続けていたんだろう。爺さんと僕らと、その向こう側に誰がいるんだろう。土曜日にはマティーニを飲んで、日曜日にはトム・コリンズを飲む。毎日冬だ。雪はそれなりに吹雪いている。お供えは毎日誰かに一つ取られていき、3日に一度は2個取られて、その度に盗人に罰を与えている。なぜ僕は罰を与えるんだ。そのお供えは、果たして僕のものなのだろうか。僕は何故物を供えられるのだろう。僕は、何のために傘をかぶるんだろう。他の地蔵じゃなくて、何故僕なんだろう。僕が、爺さんがここにくることをわかっていて、傘をかぶって、ご馳走を届けて。誰が喜ぶんだろう。何故僕は僕なんだろう。

 僕は、誰なんだ?

 地蔵は頭取を見やった。頭取は、窓の外を見ていた。曇った空から、少しだけ光のカーテンが差し込んでいた。
 「僕は、お爺さんが、好き、だから」
 みんなが、頭取を静かに見つめている。爺さんは、少しだけ泣いているようにも見えた。

 地蔵は、お茶をすすった。今までに飲んだお茶よりも、どうしようもないくらいに不味いお茶だった。地蔵は、明日は良い茶葉を持ってこよう、と心に固く決めた。

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