小説

『裸の王様』anurito(『裸の王様』他)

 さらに、マッチ売りの少女がさまざまな素敵な幻を見たのは、たまたま、過去へ調査に来ていた未来人のサンプルに使われたからで、心に思い浮かべたものを空間に写し出すマシンにかけられた結果なのだと言う。最後は、死んだはずのおばあさんまで出現してしまったので、びっくりしたマッチ売りの少女はショック死してしまったのだ。
 「ジャックと豆の木」にいたっては、またもや雲の上の巨人の住居の正体は宇宙人の巨大宇宙船だったと言うのであり、ジャックが登ったのは、豆の木などではなく、宇宙船から降ろされていた地上降下用エレベーターだった、とアール氏は力説するのであった。
 こんな話を次々に聞かされて、付き合わされている出版社の編集者もなかなか対応に困っていたようだが、アール氏の方は全く気にする気配もなくて、出来上がった科学的解釈童話が一定量まで貯まれば、出版するのもほぼ確実で(もちろん、出版費用は全て税金なのだが)、大々的に世に配布しようと心に決めていた。それどころか、これらの科学的解釈童話を学校の教科書や学習教材に採用させる事すら、すでに将来の政策の一環として目論んでいたのである。
 その日の出版社との打ち合わせを終えたアール氏は、上機嫌で、大統領邸へと向かった。大統領の相談役も担当しているアール氏にとっては、大統領と会い、その日の大統領のスケジュールの最終チェックに携わる事もまた、大切な日課だったのだ。
 大統領邸の来客室にて会ってみると、今日は午後から月初め恒例の公開挨拶が控えていた事もあってか、大統領は少し落ち着きが無いかのようにも、アール氏の目には写った。こんな時に、大統領を労って、リラックスさせる事もまた、アール氏の大事な職務の一つなのだ。
「大統領。我々が進めている、現在の政策はどれも順調なのです。今日の公開挨拶は、自信を持って、国民に話しかけてくださいね」
 と、アール氏は力強く大統領に助言した。
「ありがとう。君の働きには、いつも本当に感謝しているよ」
 そう答えた大統領は、実はアール氏より一回り以上も年下だった。
 その時である。秘書官がうろたえた様子で来客室に飛び込んできた。

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