小説

『裸の王様』anurito(『裸の王様』他)

「し、しかし、大統領」
 困っているアール氏に対して、大統領はよゆうの表情を浮かべていた。そして、戸惑うアール氏をよそに、大統領は例の少年をステージ上へと上らせたのだった。
 その少年を自分のそばに寄せて、優しく抱きしめながら、大統領は優しい口調でこう語り始めた。
「今、私は、この少年を誇りに思っている。実は、私自身にだって、自分が着ている服など見えていないんだ。今の私は裸なのだよ。自分が見た事、感じた事を素直に口に出来るのは、なんて素晴しい事なのだろうね。それが、本当の民主主義と言うものではないのかな。この国はそうであり続けたい、と私は思うのだ」
 大統領のいきなりのカミングアウトに、またもや聴衆たちはどよめきに包まれたのだった。
 大統領のそばに立つアール氏が、一番訳が分からなくなってしまっていた。少なくても、これで銀河連邦参加の話は完全にパアである。それ以上に、この先、我が地球は対宇宙人交渉において、どんな状態になってしまうのだろうか。
 そんな茫然自失していたアール氏の事を、申し訳なさそうな態度で、秘書官が静かにステージ舞台裏へと引き戻したのだった。
 そこで、アール氏が驚いた事は、なんと、舞台裏には、いつの間にか、あの銀河連邦の宇宙人二人がしっかりと待ち構えていたのである。
「こ、これは一体?」
 アール氏は動揺した。彼は言いたい事、聞きたい事がいっぱいあったのだが、先手をとって、秘書官が口を開いた。
「本当に申し訳ありません。全ては大統領が考えた、大掛かりなジョークだったんです。こんな事を上司のあなたに仕掛けるのは、気が進まなかったのですが」
「秘書官。何を言っているのかね?」
 アール氏がうろたえていると、今度は宇宙人の若者が喋りだした。
「私たちは、宇宙人なんかじゃありませんよ。ただのマジシャンです」
「しかし、私たちの目の前で、大統領を浮かせたり、消えたりしたじゃないか」
 と、アール氏。

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