小説

『町が見た夢』戸田鳥(小川未明『眠い町』)

 姫には、誓いを交わした若い王がおりました。
 けれど結婚の儀式を前に、見知らぬ方からやってきた人間たちが、王の領土を奪ってしまいました。緑豊かな美しい郷土を愛する王は、野が刈られ森の木が切り倒されして荒れていくことが許せず、日ごと思い悩むようになりました。そうしてある日、誰にも黙って姿を消したのでした。
 置き去りにされた姫は、いくら待っても帰らない王を探して旅に出ました。噂を聞きつけ、王が向かったという疲労の砂漠へやっとのことでたどり着きました。その砂をふりかければどんなものも腐れ、錆び、疲れてしまうという怖ろしい砂漠です。王はこの砂で領土を取り戻そうというのだろうか。けれど姫が考えられたのはそこまででした。疲労の砂の魔法を吸って、長旅の疲れと心労からそのまま眠りに落ちてしまったのでした。

 砂の上に力尽きた姫は、眠りのなかで長い夢を見ました。

 若い王がこの砂漠を訪れ、疲労の砂を大量に持ち帰ったこと。その砂の効力で「眠い町」を作り、町に人間が寄りつかないようにしたこと。世界を美しいままに守ろうと、旅の先々で疲労の砂を撒き続けたこと。年月がたち、若かった王もいつしか老人となり、砂を撒く旅が苦しくなったこと。眠い町を訪れた少年にその任を託したこと。
 少年は老人の願いを聞きいれてくれたけれど、残っていた疲労の砂をすべて渡してしまったことで町にかかっていた魔法が薄れてしまい、眠い町に足を踏み入れる人間が増えてしまったこと……。

 姫はそこで目を覚ましました。姫の真上には、驚く老人の顔がありました。眠い町を復活させるために、疲労の砂を集めに来たかつての王の姿でした。

 砂の中に人の形が見えたので、あわてて掘り出した娘はまだ息がありました。彼を見上げるその瞳に、老人はどこか懐かしさを覚えました。遠い昔、彼がまだ若かった頃の。
「おまえは誰だ」

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