小説

『狸釜』化野生姜(『ぶんぶく茶釜』)

あれは、もっと別の目的を持っていたとしたら…。
そうして、考えを巡らす私に、妻は無邪気に聞いてきた。
「ねえ、ところで昨日、住職が言っていた『おもしろいもの』ってなんだったの?私、ちょうどあの日に仕事で行けなくて代わりに行ってもらったでしょ?その話、聞かせてよ…。」
しかし、彼女の言葉がそれ以上続けられることは無かった。
ひときわ大きな雷が鳴ると、辺りを白く照らし出した。
私は稲光におどろき、思わず窓の外に顔を向けた。

…そうして、見てしまった。
外にいる人物に。
外を歩く人物に。
私は思わず妻が呼び止めるのも聞かず、階段を駆け下り、玄関を飛び出していた…。

…雪が降り始めていた。大粒の牡丹雪だ。
その中を歩く影は女性のシルエットをしていた。
そうして再び、稲光が辺りを照らし出した。
そして、私は知った。
それは女性ではなかった。
寝間着姿で前がはだけており、その下には何も身に付けていないようだった。そうして妊娠でもしているのかのように腹が大きく膨らんでいるのが見て取れた。しかし、それはこちらのほうを見ることも無く、そのまま前へ前へと道を進んで行く…。

私は、それを見ると、よろよろと歩き出した。
しかし、その足はあの女性とは逆の方向、寺のほうへと向かっていった。
…そうしなければならなかった。確認しなければならなかった。
幸いにして、あの歩く人物のような影はこちらを追ってくるようなことはないようだった。私は、そのまま寺へと向かった…。

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