小説

『また会えますね』吉倉妙(『夢十夜』第一夜)

 すっかり興味津々だった僕は、迷うことなく社長の面接を受けることにした。
 年内には仕事が見つかるだろうと考えていたものの、履歴書を送っても送っても面接に至らないまま日が流れ、バイト代と貯金を崩しながらの不安定な生活。
「このたびはご縁がなく……」で知らされる残念な結果に慣れてしまった僕にとって、こんなふうに人づてで面接の機会が持てるなんて、まさに不思議な「縁」であり、面接当日、見事な白髪で恰幅のいい社長から「百年待ちましたよ」と真顔で言われたことが、なんだか妙に嬉しかった。
大げさかもしれないけど、全てはここへ来るための寄り道だったと思えたし、「あなたに任せる仕事は、どれもあなたに由縁があるものですからね」という社長の言葉に、僕の胸はじーんと熱くなった。
とはいえ、僕に任せられた仕事は、草むしりだとか買い出しだとか、どれも案外ありきたりなものばかりだったけど、一度、ペットホテルに馴染めない猫の世話を一週間頼まれたとき、飼い主が「信じられない」を連発するほど猫が僕になついて、僕は、由縁とはこういうことを言うのかな?などと思ったりもした。

 年が明けてもう三ヶ月。今年に入ってから月に一度、事務所に出勤して請求事務をしている私は、二十日締めの請求書を作成しながら、以前、社長に紹介した彼のことがふっと気になった。
「そういえば社長。今日の仕事ってどうなりました?」
「あぁ、お墓参りのあの件ね。例の彼に頼んだよ」
「お墓参りで、しゅっと細身の男性という条件付きだったんですか?」
「いや。君にそう吹き込んでおけば、君が彼を連れてきてくれると予感していたのさ」
「じゃぁ、特別な指定なんてなかったということですか?」
「まぁ、正確には、そういうことになるが、結果的には、彼でなくてはならなかった」
「えーっ。意味がわからないです」

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