小説

『トマトジュースは健康に良い』祀水(『ヘンゼルとグレーテル』)

 二人が森で暮らし始めてずいぶん経った頃です。いくら歩き回っても二人はお互い以外の人間を見たことがなかったので、もうこの森には自分たちしかいないんじゃないかと思い始めていました。その頃になると、姉も妹もうさぎを獲りに行ってトマトジュース塗れになるのにも慣れてきてしまっていました。それに、お菓子の食べ過ぎでしょうか、最近二人とも眩暈が酷いのでした。
 その日のお昼、姉は川まで水を汲みに桶を持って歩いていました。
すると、なんということでしょう、岸辺に小さな男の子と女の子が倒れているではありませんか。姉はびっくりして思わず小さく叫んで桶を取り落としてしまいました。なんでこんなに驚いたかと言いますと、この森で自分と妹以外の人間を初めて見たからです。姉は大慌てで駆け寄って、男の子の肩を揺すりながらなんとか起こそうと必死に呼びかけました。
「ねぇ! あなた大丈夫!? 起きて!」
 しかしピクリともしません。姉は落としてしまった桶を拾って水を汲み、それで男の子の口を少しだけ湿らせました。そしてまた身体を揺するのでした。
「大丈夫!? しっかりして」
「……ぅ」
 肩を揺すったり、頬を優しく叩いたりしていると、男の子から反応がありました。気がついたようです。
「あぁよかった! どうしたの? 何があったの?」
「……分かりません。気がついたら森の中にいて、ずっと迷っていて……。水を見つけたら気が抜けたのか、倒れてしまいました。助けてくれて、ありがとうございます」
「いいのよ、良かったわ。そっちの女の子は?」
 姉は、まだ眠っている女の子を指差しました。
「この子は僕の妹です。僕と一緒に、気がついたらここにいました」
「まぁきょうだいなのね。私にも、妹が一人いるのよ。もし良かったら私の家に来ないかしら? お菓子と飲み物をご馳走するわ。もう少し話を聞かせてくれないかしら」
「いいんですか? ありがとうございます! 僕も心細くって。誰かと話したかったんです」
 というわけで、姉は二人を家に招待しました。

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