小説

『それぞれの密』柿沼雅美(谷崎潤一郎『秘密』)

 「それは、それはさー、俺別に脱いで欲しいとかおっぱい触りたいとかで来てるわけじゃないから向こうから積極的に来られたらひいちゃうんだって」
 英美は俊の言葉に重ねるように言う。
 「だから、だからさー、ここはそういうところなんだからひいちゃだめでしょって。俊くんもう30歳なんだから」
 「もう30だからただしゃべったりするだけがいいって言うのがあるんだろ」
 「ふーん。でも他の子はさ、オプションで稼ぎたいからやっぱり色々あるよ」
 英美が言うと、そりゃそうだ、と俊があくびをした。
 秋葉原駅から徒歩5分のストローベリールームメイトには、30人くらいの女の子がバイトをしている。友達の朱里に誘われて入ってみたら他のバイトよりよっぽど楽なので英美も在籍しつづけている。お店のシステムは簡単で、1時間5000円でマジックミラー越しの部屋にいる女子高生たちを自由に見学できる。3000円で気に入った女の子を指名して小部屋で2ショットで会うことができ、小部屋ではオプション選択が可能で、手繋ぎ5分、座って正面から肩もみ、ひざまくら、などが1000円から選択できるようになっている。稼ぎたい子は、不自然にブラウスのボタンを開けて指名を取ったりしているけれど、英美はただ部屋に置かれたおかしを食べながら雑誌を読んだりして過ごしていた。俊は最初の指名で積極的すぎる女の子にあたり、引いてしまったので大人しめタイプで店員から英美を紹介された、と話してくれた。彼女もいるし普通に会社員をしているし、ただ遊びで店に来ているだけだった。
 「この間さ、なんか知り合いの知り合いって俺のSNSに出て来た女の子がいてさ、放送してるから見てくださいって言われたんだよ」
 「あぁネット生放送みたいなの?」
 英美は大部屋から持って来たポッキーを音を立てて聞く。
 「そうそう、俺なんのことか全然分からなくてさ、リアルタイムで動画で見れるって言われて、何人も人が見てくれてるっていうから見てみたんだよ」
 「あ、わかった。閲覧料取られたとか」

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