小説

『シンデレラの継母』泉谷幸子(『シンデレラ』)

 三女は買い物や食事の用意、女たちの部屋の掃除、ちょっとした雑用などで働き詰めになった。姉たちがあまりにあれこれ散らかすので片付けても片付けても部屋はきれいにならず、ついでにあれもこれもと色々言いつけるので身をかまう余裕もなく、ほこりや灰をかぶったようにみすぼらしい状態でいるのがふつうになった。それを姉たちが「シンデレラ(灰かぶり姫)」と呼ぶようになったのは、周知のとおりである。
 しかし彼女が感心したのは、呼び名がそうであってもシンデレラの美しさはまったく変わらないことだった。髪が乱れていても服がつぎだらけであっても、それらがかえって美しさを誇張しているように思われた。掃除をしていてもじゃが芋をむいていても、何気ないしぐさひとつひとつが可憐である。貴族として一般的な服を着ている長女や次女がとんちんかんというか、ちんちくりんに見えるのとは大違いであった。
 それに、シンデレラの働きぶりは彼女が期待した以上のものがあった。まずとにかくよく気が付き、さらりと皆の手伝いをする。使用人たちは自分の仕事を主人のひとりが進んでやるのだから、皆が皆恐縮する。そして感謝の言葉を口にする。そうした時にシンデレラが見せる恥ずかしそうな微笑み。その微笑みが神々しいくらいに美しいのだ。使用人たちがその微笑みの虜になっていることを彼女はすぐに気がついた。その時すでに自分も同じように虜になっていることを自覚する一方で、女主人としてあるいは不美人の娘の母親として苦々しく思うのもまた事実だった。
 それでも彼女は、最近ますますこの屋敷が生き生きと活力に満ちていることに喜びを見出していた。それがシンデレラが自分の不足分を補ってくれているからだということもよく理解していた。しかし、簡単に納得できない性分の彼女は、シンデレラとの距離を見測ることに専念しているうちに、直接何かお礼やねぎらいの言葉を伝える機会を逃してしまった。シンデレラのほうも、彼女に何か言うことはなかった。それが何を意味するのか、その時の彼女にはわからなかった。主人のひとりであるのに小間使いとして、継母や血のつながりのない姉たちに奉仕する毎日を送るのは不満であるに違いないだろうに、不満らしい態度もものの言い方も決してしない。

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