小説

『ウェンディとネバーランド』あやもとなつか(『ハメルーンの笛吹き』『ピーターパン』)

「もちろん!」
「ありがとう!」
ピーターは満面の笑みを浮かべた。そして、息を吸い込んで言った。
「『別れの喜びと悲しみ』…なんて、この花には似合わないかな。あはは。」
パチン。
ピーターが指を鳴らした。瞬間ネバーランドの景色が歪んでまわり始める。
「さようなら、ウェンディ。いつだってネバーランドは君のそばにあるよ。だけど、当分は来なくていいからね。だって君はいろんな人に愛されてるんだから。…友達になってくれてありがとう。」

 
目を覚ますとハメルーンの街の、おじさんの家の、私のベッドの上だった。朝の日差しが眩しい。キッチンからは美味しそうな匂いがする。私は大きく伸びをする。すごく疲れていた。
(長い長い、夢を見ていたみたい。どんな夢だったっけ?)
ベッドの横ではナナが椅子に座ったまま寝ていた。
「ナナ、風邪ひいちゃうよ。」
私が体を揺するとナナはゆっくりと目を開けた。目が充血している。
「ウェンディ!ウェンディが起きたわ!」
ナナは歓声を上げて私に抱きついた。隣のベッドではジョンが体を起こした。ナナは飛び上がってジョンに抱きついてキッチンに向かって叫んだ。
「お母さん!お母さん!ウェンディとジョンが起きたわよ!」
ベッドの横の開いた窓から他の家からの歓声が聞こえた。
「坊やが起きたわ!」
「子ども達が起きたぞ!」
(何でこんなに大騒ぎしてるのかな?)
私は寝ぼけた目を擦ってそっと窓から外を覗いた。
フワリ。
風が吹いて部屋に1枚の花びらが入ってきた。水色の花びら。甘い香りがして、なぜだか私は胸が暖かくなった。
パチン。
私はどこかで、誰かが指を鳴らすのを聞いた。

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