小説

『焦げ茶のバクダン』守田一朗(『檸檬』)

 名だたる屈強な男子たちも戦々恐々とし、女子たちは赤子の手を捻るように、僕らを掌の上でコロコロと踊らせ期待させるばかり。勝ち目のない勝負。しかし、勝者と敗者を決定的に、情け容赦なく数字によって分かとうとする狂乱の祭り。零か、それ以外か。
 『バ レ ン タ イ ン』たった六文字の中に込められた嬉しハズカシの恋模様。
 僕はその晩、夢を見た。目も当てられないくらい眩しく発光する恋心たち。太陽の周りに虹ができたように神々しい。僕はそれを掴もうと必死に追う。しかし、いくら追えどもその発光源は遠ざかるばかりで、一向に近づける気配はない。手を伸ばしても空を切る。輝きは余計に増し、熱を帯びる。何だか身体が炙られたように熱くなってくる。このままではいけないと目を覆う。指の隙間からも強烈な光は漏れ出してくる。たまらず目を逸らすと、その光の隅にできた影の存在がふと目に留まる。たまらずその影に隠れようとする。こちらの方には容易く近づけた。近づいて気付く。その影だと思ったものは、影ではなく実は立体で、何だか得体の知れない黒い塵みたいなものが山のごとく積み上げられていた。そびえ立つソレの一部を手にとってみる。何かと思ってみれば、手の中の黒いソレは、燃え上がる恋心たちの余熱で焼け焦げた先人たちの消し炭だった。夢の中の僕はその灰をぎゅっと握りしめ、「カタキはとってやる」と涙ぐみながら誓う。どこにも存在しないはずの敵を追い求めて、再び発光する恋心たちに正対する。眩しすぎて目が覚めた。朝だ。

 冬の朝は薄暗い鉛色をしている。寝不足で半分醒めてない鈍重な頭には、コンクリートの道なりも玄関灯を消し始めた街並みも記憶に残らず過ぎ去っていく。学校への距離が近づいてくると、それと反比例するように、鬱屈した気持ちが余計に重たくなった。空っ風も強く吹き、思うように進めない。天も今日は家に引き篭るべきだと警告しているのだ。
 いつもの坂道を登っていると、いつもにはないピリピリとした一発触発の緊張感が漂ってきた。気付けば、周りは同じ制服を着た人たちばかりだ。そこではみなが狩人の形相をしている。何かを探すように顔をキョロキョロとさせ、羽織った黒いコートが後ろ姿にも落ち着きなく揺れている。気持ちは分かるが、当日に行動したところで獲物は仕留められるものではない。一流のハンターは諦めたようにただじっと待つ。悠然と「その時」を頭の中でシュミレーションする。

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