小説

『双子倚子』ナマケモノ(江戸川乱歩『人間椅子』)

 私は、混乱いたしました。なぜ、定子さまは彼女たちを隠す必要があるのでしょうか。そして、政敵たる私に彼女たちを託すような真似をなされたのでしょうか。
――私たちは、お父さまの栄光のためにこの世に生を受けました。どうぞ、その顛末をお見届けください。
困惑する私に姫君たちは微笑みます。そのとき、晴明がすっと姫君たちの前に立ちはだかりました。晴明の手には、太刀が握られております。爛々と輝く太刀の刃を見て、私は思わず声をあげました。
 その声とともに、晴明が姫さまたちの首を跳ねたのです。首は体から高く飛び上がり、弾みをつけて床に落ちました。首を失った体からは、血が勢いよく吹きでておりました。
 ただ、私は唖然とするしかありません。そんな私に、晴明は微笑んでみせたのです。
――この方たちは存在しない方々なのです。何の心配もございません。それより、定子さまの文をお読みください。
 私は、あのとき清明を殺しておくべきだったのです。さすれば、こんな恐ろしいことにはならなかったでしょう。姫君たちは、命を喪わずにすんだでしょう。
 あまりに浮世離れした出来事が多すぎて、私は我を失っていたのです。晴明の命に従い私は定子さまの文を読んでいました。
『娘たちの顛末を、見届けてください』
 文には、その一文だけが書かれておりました。

 
 定子さまの文に従い、私は毎夜のようにその荒屋に通いつめました。夜になると、どこからともなく晴明が訪ねてきて、私を荒屋へと誘うのです。
 夜の野原は幻想的でした。雨露が草を潤し、月光に輝いているのです。まるで、瑠璃の破片が散らばっているようでした。
 そこに、姫さまたちの体が横たえられておりました。美しい白い内着に赤い単衣を纏った首のない体は、無数の狐に取り囲まれていました。
 飢えて、やせ細った狐たちでした。その狐の牙が、美しい衣に食らいつき、体からそれを剥ぎ取って、姫君たちの白い裸体を月光に晒します。その月光に晒された裸体が、無数の狐に蹂躙されていきます。
 狐たちが人肉を咀嚼する音が、今でも私の耳に残っているのです。
 あぁ、おぞましい。おぞましい……。

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