小説

『月満ちる時』但野ひまわり(『竹取物語』)

 妻とかぐやと俺、三人での生活も三年が過ぎようとしていた。
 子供がいるということは、こんなにも楽しくて、こんなにも幸せなものなのか。俺はこの三年でそれを痛感していた。かぐやの見せるひとつひとつの表情、ひとつひとつの仕草が愛おしく、日々の成長がこの上なく喜ばしい。それは妻も同じようで、遊ぶかぐやの姿を目を細めて見つめていることが多かった。そんな娘は、十五歳になっていた。
 赤ちゃんから幼児へ、子供から少女へ成長するにつれてその肌は陶器のように滑らかになっていき、瞳は愛くるしく大きく、髪は腰まで長く艶やかで、一目見れば、一瞬で心を奪われてしまうほど美しくなっていた。だが、その姿が噂を呼び、幾人もの男性たちが、かぐやに結婚を申し出て来るようになった。
 普通に考えれば大変ありがたい話ではあったが、十五歳と言っても俺たちの元に来てまだ三年。娘どころかまだまだ子供のような気がしていたし、嫁に出すのはまだ早く、そして正直寂しいと思っていた。それはきっと妻も感じているに違いない。俺たちの気持ちを知っていたのかは分からないが、かぐやは、かぐやなりの考えがあったようで、結婚の申し出をすべて断っていた。
 しかしかぐやの美しさが上流階級の方々にも届いてしまい、五人の青年が家にやって来くることになった。嫁の貰い手がないのも困るが、求婚してくれる相手が多くても非常に困る。何より、あまり乗り気ではない娘の気持ち、娘が嫁いでしまってからの妻の気持ちを考えると、俺も娘の結婚に対して肯定的にはなれなかった。

     *

 心が落ち着かない日々が続いている。
 それはここ最近娘を嫁にと求婚する男性が多いからだ。三年が経ち、かぐやは十五歳の美しい娘に成長していた。だが、私たちの元に来てまだ三年しか経っておらず、嫁がせる年齢だという認識は頭にはなかった。だが、私が夫の所へ嫁いだのが十六の時。十五歳となれば、結婚の話が出てもおかしくはない年頃だ。上流階級の青年たちは、私にも夫にも、かぐやへの想いを語る非常に熱心な若者たちだったが、急に娘がどこか遠くへ行ってしまうような気がして、私は寂しくて堪らなかった。
 かぐやが結婚の条件として出した難題を達成することが出来ず、青年たちはようやく自分たちの故郷に帰っていったが、あろうことか、かぐやのことが帝の耳にも届いてしまった。帝からの要望を断ることなんて私たちに出来るはずもない。宮廷は、どろどろとした女の世界でもあると聞く。そんな所に娘をやらねばならないという不憫さと、これで本当に嫁いでしまうという現実的寂しさから、私は気がおかしくなりそうだった。かぐやも帝に嫁ぐのが嫌なようで、毎日のように泣いていた。だが、それは私の思い込みだった。かぐやは別のことで胸を痛めていたのだ。

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