小説

『月満ちる時』但野ひまわり(『竹取物語』)

 子供は輝く竹の中から出て来た『ややこ』という意味で『かぐや』と名付けた。これは妻も気に入ったようで、かぐやが目を覚ましている時はもちろん、眠っている時でもあやすようにその名をよく口にした。かぐや自身も自分の名前だと分かっているのか、そして妻が自分の母親だと分かっているのか、名を呼ばれるとじっと妻の顔を見つめたり、その動きを追うように瞳を動かしたりしていた。妻から母乳が出たことには驚いたが、自分の乳を飲ませられることがこの上ない喜びのようで、胸が張って痛くても、辛い顔を一切見せなかった。
 かぐやは手のかからないとても良い子で、夜泣きをまったくせず、すくすくと育った。だが、他の子と一つ違うことがあった。それは人より成長が早いということだ。竹の中から拾って来て一カ月ほどだが、既に首が座って寝返りが打てるようになっていた。この調子で成長すれば、この先どんなことになるのか。漠然とした不安が常に頭の片隅に居座り続けていたが、それに気づかない振りをしている俺がいた。

     *

 かぐやと一緒に暮らし始めてからというもの、毎日が飛ぶように過ぎて行く。
 かぐやがお腹をすかせるので、いつもより早く起き、乳を飲ませてから朝御飯の支度と夫の弁当の準備をする。夫を仕事へ送り出した後、川へ洗濯をしに行く。普段は二人分と軽い洗濯桶も、かぐやのおしめや、産着などが加わるとさすがに重い。洗濯を済ませると、再びかぐやに乳を飲ませて寝かしつけ、部屋の掃除。簡単に昼飯を済ませて畑仕事に取り掛かる。後ろに背負いながらの作業はなかなか大変だったが、時折後ろを覗くとその寝顔や笑顔に癒されるので、まったく辛くはなかった。
 畑仕事が終わるとかぐやに乳を飲ませ、もう一度寝かしつけてから夕飯の準備だ。かぐやが家に来てからというもの、夫の帰りも早いので、夕飯の時間も自然と早くなる。忘れかけていた夫との会話は自然と増え、尋ねる夫に今日のかぐやの可愛いしぐさなどを教えてあげるのが日課となっていた。
 最近ではひとりでつかまり立ちが出来、もうすぐ歩けるようになる勢いだ。この前は私のことを「おっかぁ」と呼んでくれた。空耳ではないかと一瞬自分の耳を疑ったが、しっかりと私を見つめながらそう呼んでくれたことに、言葉では言い表せない嬉しさが込み上げた。かぐやが堪らなく愛おしくて優しく抱きしめてやっていると「俺は?」と言って、まだ「おっとう」と呼んでもらっていない夫が拗ねたような顔をしていた。
 かぐやは人より成長が早いようで、三か月ほどしか経っていないのに既に一歳の子と変わらなくなっていた。何とも言えない不安に駆られることもあったが、我が子の成長ぶりを毎日見ていると、そんなことはどこかへ追いやっている私がいた。

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