小説

『音がきこえる』Mac(『トカトントン』太宰治)

 いや、始まる予定だったんですけどね。ビューティフルライフ。いえ、計画に狂いはなかったはずなんですけど。気が付いたらもう夏です。なんででしょうね。大学って勝手に友達を作ってくれる機関じゃないんですか? 文科省はもっと真面目に働くべきだと思います。
「あー……」
 フローリングに寝そべりながらカレンダーを眺めます。ああ、なんて床は冷たいんでしょう。私のこと一番理解してくれてるのはお前だけだぜ、床。
 このまま夏休みも終わってしまうんでしょうか。時々遠くで工事の音が響きます。この前試しに海へ行ってみましたが、一人だと悲しいもんですね。砂を掘るぐらいしかすることないですね。
 この前なんて気を紛らわすためについついペットを飼おうかホームセンターで数日悩んでしまいました。結局やめましたけど。なんか最後まで面倒見きれる気がしませんから。そうだ、どうせ飼うならカピバラとか飼いたいですよね、あとミニブタとか。ヤギとか。なんかそういうの。最後まで面倒見きれる気がしませんけど、想像するのはタダです。
 そうだ、村尾さんでも誘ってどこか行ってみましょうか。いや、そういえば村尾さん夏休みは実家に帰るって言ってた気がします。おみやげ、貰えるかなあ。きっときびだんごだろうなあ。いや、岡山ってもっと色々あるでしょう、こう……きびだんごとか……きびだんごとか……あ、桃? 桃ってこの季節なんでしょうか? ていうかおみやげで桃ってどうなんでしょう。うーん。
「おーい。いるかー?」
 と、耳馴染みのある声とともにインターホンが押される。
「はああい」
 予想外の来訪者に飛び起き、玄関を開ける。
「おお、ヒマしてるね」
「なぜそれが」
「ヒマじゃなかったらすぐ出てこんでしょ」
 ドアの向こうにいたのは村尾さん。
「村尾さん、きびだんご王国に帰ったんじゃないんですか?」
「帰ろうと思ったんだけど、面倒だったからつい」
「普通実家帰ったほうが楽なのではないでしょうか」
「いやー、帰るまでが面倒というのか。だって新幹線使わないと片道二時間よ? 大阪兵庫は一時間なのに、岡山兵庫が二時間ってどうよ?」

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