小説

『王子さまの手紙』和織(『星の王子さま』)

「『あの点燈夫はもうずっと眠っていないんです。とてもかわいそう。頭のいいあなたなら、きっとなにかいい方法を考えてくれると、ぼくは思います』」
 地理学者は、最後の部分をとくに大きな声で読みました。
「それ、あのぼうやからの手紙?」
 うぬぼれ男がききました。
「そうだとも。さて、まずは王さまに命令を変えさせにゃならんな」
「なんだと?!」
 王さまは思わず大きな声を出し、子供の様に足をバタバタさせました。
「そんなこと駄目だ!誰かの希望で、王さまの命令を変えるなんて!」
「ああ、なんだ、そこにいたのかい」
 地理学者はそのとき初めて王さまを見ました。
「変えるったって、あの点燈夫一人に対する命令を変えればいいだけさ。五日働くごとに、一年休みをやればいい。あの周辺には他にも星がいっぱいあるんだから、持ち主から借りて、そこで他の点燈夫に働いてもらえばいいのさ。どうせあれらの星は空っぽだし、暇してる奴らだって、探せばいくらでもいるんだから」
 王さまには、地理学者が一体何を言っているのか、さっぱりわかりませんでした。ただ、頼りない声でこう言っただけです。
「・・・そんな、勝手に決めおって、わしは知らんぞ。そんなこと・・・」
「あんたどうせ、命令を出したことも、それがどんな命令だったかも、覚えていないんだろう?」
 本当のことを言われて、王さまはついに黙り込んでしまいました。
「星を使いたいなら、使ってくれてかまわないけど」
 実業屋が地理学者に言いました。
「本当かい?」
「ああ。これでおれの星たちも、やっと何かの役にたつってわけだ。あとは点燈夫だな。よし、おれが探してこよう。ああ、仕事まで見つかっちまった。こりゃいいや」
 実業屋はうれしそうでした。その顔を見ていて、うぬぼれ男も、何か協力したいという気持ちになりました。
「おれ、やってもいいけど、点燈夫」
 ぼそっと、はずかしそうに、うぬぼれ男はいいました。
「あんた、そりゃ本当か?」
 実業家がうぬぼれ男の肩を叩いて言いました。

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