小説

『王子さまの手紙』和織(『星の王子さま』)

「でも、わしと一緒に来れば、探した先でぼうやに会えるぞ。ここでただ待っているより、はやく会えるんだぞ。いや、ここで待っていては、もしかしたらもう二度とぼうやには会えんかもしれん」
「え?どうしてです?」
「だってお前、ぼうやがこの場所を覚えているかどうかなんてわかりゃしないじゃないか」
 王さまは言ってから、我ながら賢いことを言ったと思いました。
「あ、そうか。もしかしたら、だから来ないのかも」
 まんまと王さまの考えにのせられて、うぬぼれ男は王さまと共に星を後にしました。

 次に二人が辿りついたのは、呑み助の星でした。呑み助は相も変わらず酒を飲み続けていました。王さまとうぬぼれ男が金の髪の少年について訊ねましたが、呑み助はもう少年のことを覚えていませんでしたし、王さまとうぬぼれ男に質問をされたことも、二人のことも、またすぐに忘れてしまいました。

 実業屋はタバコを吸っていました。ゆっくりと煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出します。思えばこうやってゆっくりタバコを吸うようになったのは、あの少年がここを訪ねて以来のことだな、とぼんやり考えていると、そこへ王様とうぬぼれ男がやってきました。
「もし、あんた、金の髪をしたぼうやを知らないか?」
 星に降り立つなり、うぬぼれ男が言いました。王さまはまた、自分の王冠と毛皮を整えています。
「ああ、もう随分前だがね、ここにきたよ。あのぼうやがどうしたんだ?」
「探しているんだよ」
「どうして?」
「どうしてって、いなくなったからさ」
「あの子がいなくなって、どうしてあんたが困るんだい?」
 うぬぼれ男は言葉に詰まってしまいました。うぬぼれ男には、王様のように、「家来を連れ戻す」といったような、はっきりとした目的がありませんでした。次に会ったら、一言何か文句でも言ってやろうかと、少年が去ったばかりの頃は考えていたのですが、今となってはそんな気持ちも消えてしまっていました。あの少年に会えたところで、自分がどうしたいのか、うぬぼれ男にはさっぱりわかりません。それなのに、のこのこ王様についてきてしまったのです。今になって、うぬぼれ男は後悔し始めました。
「わしの家来は、どこへいったかね?」

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