小説

『置き傘』島田亜実(『笠地蔵』)

少年が来ていた黒いローブを僕にかぶせてきた。
「着ておけ。生身は危ないぞ」
少年は笑いながら言うが、こっちとしては洞窟にはいるのも怖いのにそんなことを言われてはたまったものではない。
少年が洞窟の中に入っていく。
「ちょっと待って」
慌てて追いかけて中に入る。
いきなり松明が灯り、ビクついてしまう。
「こちらへどうぞ」
「わっ」
白い布で顔を隠した人が出てきた。
背格好や声からみて女性だろう。
「そんなにびっくりするなよ」
少年は笑い、歩いていく。
「ここからは何があっても驚いちゃいけない。喋らなくていいから、堂々としとけよ」
少年が立ち止まり、僕も立ち止まる。
「こんにちは。手土産にお花持ってきました」
「そう」
洞窟の暗い奥から声が聞こえる。性別のわからない声。
肩が上がってしまったが、声は抑えた。
「綺麗なものがお好きだと聞いたので」
「そうね。美しいものは好きだわ」
先ほどの女性が近づいてくる。
「お預かりいたします」
少年から花を受け取り、奥に入っていく。
あの女性は声の主の召使いのよう者らしい。
「早速ですが。今日はお願いごとがありまして、お尋ねいたしました」

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