小説

『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』大前粟生(『雪女』)

「うーん、なんとなく」
「それにしても、二回も襲われるなんてね」
「だれが?」
「あなたが」
「え?」
「レイプ」
「が、どうしたの?」
「されてたじゃない」
「僕が?」
「私がくるの、間に合わなかったけど」
「いつ?」
「私がくるまで。でも、よかったね。助かって」
 ユキは善意でパパたちを殺したらしかった。
「あぁ、うん。そうだね。されてた、レイプ。ありがとう」
 僕はうそをついた。本当のことをいっても別にだれかが救われるわけじゃないし、少なくとも僕がうそをついたことでユキが満足してくれるならそれでよかった。満足して、もう帰ってほしい。

「どうやったら、もとにもどると思う?」と水がいった。
「うーん、凍らすとか?」
「それだと、氷じゃない。氷女になっちゃう」
「じゃあ、雪にしたらいいのか」
「水を雪にするのって、どうするの?」
「蒸発して、雲までいくんじゃない?」
「それは……こわいなぁ」

「ねぇ、私、ここに住んでもいい?」ユキがいった。
「は?」
「いくとこないの。身内、いないから」

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