小説

『レーヴレアリテ』柿沼雅美(太宰治『フォスフォレッスセンス』)

 アミは笑顔でサチエに言う。あ、今さらっと爆弾投下した、と思った。サチエは、へぇそうなんだいいなぁ、とわざとらしいくらいに声を高くした。 
 「どんな人、どんな人?」
 「普通だよー。でもサチエの前彼がどんな人だったかも知りたいから、じゃあ見せ合いっこしよ」
 僕は、なんで相手の前彼とおまえの今彼の見せ合いっこになるんだよ、と心の中で突っ込んだ。
 「うんいいよ、あたしのは全然だよー、アミの彼氏も見せてね」
 いいのかよ、とサチエを見ると、サチエはテーブルに置いていたスマホを結構な早さでスクロールした。
 「わー、やっぱアミの彼氏はかっこいいー」
 覗き込んでいる画面をちらっと盗み見ると、今風のおしゃれな男がアミに後ろから腕を回してハグし、アミが手を伸ばして自撮りをしている写真が見えた。画面のアミはぐっとかわいらしく見えた。
 「確かにおしゃれではあるかな。で、これがサチエの前彼かぁ、うん、うん、いい人そういい人そう」
 僕は、でたー、褒めるポイントが見当たらない時に出す、いい人! と心の中で言う。
 「なんかちょっと研修のチーフに似てない?」
 アミが言うと、そうなの、実はそう思ってた、とサチエが小声で返した。アミは、社内恋愛とか目指しちゃう? キャー と楽しそうにテーブルを叩いた。
 「無理だよーそれはちょっと憧れるけど」
 無理だろー、と同じトーンで僕はサチエを見た。
 「たぶん研修中しか関わらないだろうし」
 サチエはちょっと残念そうな顔をする。
 「でもさ、でもでも、連絡先とか聞いとけばいいわけでしょ? ラインだってメッセージだって有りだしさ」
 そうかなぁ、とサチエが手に取ったばかりのナゲットを口に入れずにつまんだままでいる。
 「そうだよ。それにさ、東京の店舗希望したりもできるわけじゃん、まだ分からないって」
 「だといんだけど、ほんと、だといんだけど!」
 「連絡先聞けたらいいのにねー、っていうか、サチエのスマホカバーかわいくない? どこの?」
 アミがカフェラテにちょびっと口をつけた。なんでその盛り上がりからスマホカバーに話が急展開するのかと思う。
 「これ? これね! レーヴレアリテのツアーグッズなの」
 「あ、そうなんだ。っていうかレヴレア好きなの? 私も好き」

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