小説

『おばあちゃんと少年』升田尚宏(『ごんぎつね』)

 おばあちゃんは山あいの村の古びた家で、一人寂しく暮らしていました。近所の人達も、みんな歳を取って亡くなってしまい、夜は静かで静かで、寝ていると虫の鳴き声がはっきりと聞こえてくるのでした。おばあちゃんは、このまま死ぬのを待つだけの寂しい人生なのかなと、いつも思っていました。
 ある日のことです。家の近くの野菜畑で農作業をしている間に家に泥棒が入ったのです。家から逃げ出して行く泥棒を見つけ、「こら!泥棒!」と叫びました。大きな声が山にこだましました。おばあちゃんは大きな声を出し過ぎてぎっくり腰になりそうでした。おばあちゃんには、逃げていく泥棒が大人ではなく子供に見えました。
 おばあちゃんは家に戻ると、タンスの引き出しが抜かれ、お金の入った財布と、台所に置いてあった、昨日採れたばかりのニンジンやトマトが盗まれているのが判りました。
 その夜、おばあちゃんは、タンスの同じ引き出しに、壺の中に隠してあったお金を少しだけ取り出して置いておきました。台所には、今日採れたばかりのダイコンとナスを。
 翌日の朝になり、おばあちゃんは、いつものように家を出て畑仕事をしていました。
 夕方に家に帰ろうとしたところ、家の玄関からそっと逃げていく人が見えました。おばあちゃんには顔がハッキリと見えました。泥棒は中学生くらいの少年だったのです。
家に戻ると、同じ引き出しからお金が盗まれ、台所ではダイコンとナスもなくなっていました。泥棒の少年は思いました。
「バカな婆さんだなあ。同じ引き出しに金をまた置いておくなんて。きっとまた入ってやる。簡単に盗めるに違いない。」
 おばあちゃんは畑から戻ると、また壺の中からお金をタンスの引き出しに入れた後、夜寝る前に台所に行き、今日採れたばかりのキャベツとブロッコリーを置きました。
 次の日、いつも通り、おばあちゃんは野菜畑に向かいました。少年は、草の陰からその姿を確認し、そっと家に入っていきました。
 少年がお金の入っている引き出しを覗くと、やはりお金が置いてありました。昨日入っていたお金の二倍のお金が。少年は、しめしめ、と思いました。
「最初に金を盗んだ場所と同じ所にまた金を置いたか。」
少年はお金を握りしめ、台所に向かいました。すると、昨日と同じ所にキャベツとブロッコリーが置いてありました。
「やはり、ボケた婆さんだ。同じ所に野菜も置いてやがる!」

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