小説

『縁日の怪人』小笠原幹夫(江戸川乱歩『少年探偵団』)

 最初のうちおまわりさんは、杉男たちの言うことがあまり突飛なので、かつがれているのだと疑って笑っていました。が、怪人が子供を横浜の波止場につれて行ってサーカスの団長に売り渡しているというのを聞いて、にわかに顔色をかえました。人さらいの捜索はかねてより本署から申しわたされていたからです。おまわりさんは、さっそく本署に連絡し、非常線がはられましたので、杉男たちはひとまず安心していました。
 しかしその後、何日かたちましたが、縁日の怪人が逮捕されたという知らせはいっこうに聞こえてきません。怪人の残していったリヤカーには鑑札かんさつ(番号ふだ)がついていました。鑑札を発行した東京の警察署では、記録されている所書ところがきと氏名をたよりに男をさがしに行きましたが、そこにそんな男はいません。そんな番地さえなかったのでした。
 怪人はきっと、たくみに変装して、縁日の人ごみの中にひそんでいるにちがいありません。きょうもどこかの神社の参道では、サルスベリやキョウチクトウの鉢植えのかげで、植木屋さんに変装した怪人が、道ゆく子供たちをねらっているのです。               

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