小説

『縁日の怪人』小笠原幹夫(江戸川乱歩『少年探偵団』)

 毎年お盆の十三日には、ホウロクをそれぞれの家の前の軒下に持ち出し、オガラを積み上げて迎え火を焚きます。十六日には、ふたたびオガラを用意し、送り火を焚きます。この明かりを提灯の代わりにして、御先祖様があの世からこの世に帰ってきて、三日後にまたこの世からあの世にもどっていくと言い伝えられているのです。
 お盆の四日間は、八幡神社の参道から境内にかけて、びっしりと露店が立ち並びます。ガラス玉の風鈴とか釣り忍とか海ホオズキ屋、水槽になみなみと水を満たした金魚屋、竹の虫籠を積んで涼しい音色を聞かせる虫売り、蚊帳ばりの籠にツユクサをつめてホタルを何匹かそこにとまらせて売っている店。赤・黄・桃・紫・緑とパレットの絵の具を見るようなあざやかな色彩の水中花、暗い中に小さなロウソクの火を中心にして風にゆれて回っている走馬灯は、まるでいくつものおとぎ話を語っているようです。
 しょうのう舟、ハッカパイプ、カルメラ焼き、べっこう飴、ワタ飴、しんこ細工、水ヨーヨー、型ヌキ、輪投げ、射的、玉ころがし。
 葭簀よしずがこいの氷屋の店さきには、青と白の涼しげなガラスののれんがさがり、氷という字の染められた旗がひるがえっています。こまかくけずられた氷が、ガラスの器に盛り上げられて、それに赤や黄のシロップやアズキをかけ、客は縁台に腰をおろしてサジですくっています。見せもの小屋やお化け屋敷もかかるので、子供たちは大よろこびで見てまわり、買物やゲームを楽しみます。
 小学生の杉男がとくに好きなのは箱庭です。底の浅い木箱に土や砂を盛りこみ、石をならべて風景を作り、ヒエを蒔いて青い芽が出てくるのを田圃に見立てます。そこに鉛細工の小さな藁屋根の家、水車小屋、舟、赤い塗料をぬった鉄橋、牛や馬、さらに、かかしや船頭、釣り人などの豆人形を置いて、おのおのの夢の庭園をつくるのです。
 縁日にはそういった箱庭を作る道具を専門に売る店があって、できあがった箱庭の見本もおいてあります。
 もちろん杉男の小づかいでは、それらの道具を一ぺんに手に入れることはできません。お盆のときのほかにも、八幡様の縁日は八日、十八日、二十八日と月三回あります。そのたびに杉男は少しずつ買いためて、箱庭が完成するのを楽しみにしていました。

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コメント
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    昔の祭はわくわくします。期待はもちろんちょっとした不気味さも。そんな空気がひしひしと感じられました。(11月期優秀賞受賞者:伊藤円)